

〜LAMP法の反応原理について〜
栄研化学株式会社 マーケティング統括部
遺伝子検査チーム 上野潤二
1.LAMP法とは
LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法は栄研化学株式会社が開発した,PCR法とは全く原理の異なる,新しい遺伝子増幅法である。
標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマーを設定し,鎖置換反応を利用して一定温度で反応させることを特徴とする。サンプルとなる遺伝子,プライマー,鎖置換型DNA合成酵素,基質等を混合し,一定温度(65℃付近)で保温することによって反応が進み,検出までの工程を1ステップで行うことができる。
2.プライマー設計
標的遺伝子に対して,3'末端側からF3c,F2c,F1c という3つの領域を,5'末端側からB1,B2,B3という3つの領域をそれぞれ規定し,この6つの領域を用いて下記の4種類のプライマーFIP,F3 Primer,BIP,B3 Primerを設計する。

3.LAMP法の反応原理
LAMP法では,合成されたDNAの3'末端が常にループを形成して次のDNAの合成起点となるようプライマーの設計を工夫しており,1種類の鎖置換型DNA合成酵素の使用により,等温かつ迅速な増幅反応の進行を可能としている。
標的遺伝子(鋳型例:DNA)と全試薬を混合し,65℃でインキュベートすることにより,以下のような反応過程が進行する。
1)起点構造ができるまで
2本鎖DNAは65℃付近では動的平衡状態にあるため,いずれかのプライマーが2本鎖DNAの相補的な部分にアニールし,そこから伸長することで片側の鎖がはがされて1本鎖状態になる。
そのため,LAMP法では,PCR法のようにあらかじめ2本鎖DNAを1本鎖に熱変性する過程を必要としない。以下の反応機構は,1本鎖状態になった鋳型にFIPがアニールするところから説明する。

鎖置換型DNAポリメラーゼの働きにより,FIPのF2領域の3'末端を起点として鋳型DNAと相補的なDNA鎖が合成される。

FIPの外側にF3 Primerがアニールし,その3'末端を起点として,鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって,先に合成されているFIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長していく。

F3 Primerから合成されたDNA鎖と鋳型DNAが2本鎖となる。

FIPから先に合成されたDNA鎖は,F3 PrimerからのDNA鎖によって剥がされて1本鎖DNAとなる。
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上記(5)のDNA鎖は,5'末端側に相補的な領域F1c,F1を持つため,自己アニールを起こしてループを形成する。このDNA鎖に対してBIPがアニールし,このBIPの3'末端を起点として相補的なDNAの合成が行われる。この過程でループは剥がされて伸びる。更に,BIPの外側にB3
Primerがアニールし,その3'末端を起点として,鎖置換型DNAポリメラーゼの働きによって,先に合成されているBIPからのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長していく。

上記(6)の過程により2本鎖DNAができる。

また,(6)の過程で剥がされたBIPから合成されたDNA鎖は両端に相補的な配列を持つため自己アニールし,ループを形成してダンベル型の構造となる。この(8)は,LAMP法における増幅サイクルの起点構造となるものであり,これまでの過程は,LAMP法における増幅サイクルの起点構造を作るための過程ということになる。

2)LAMP法の増幅サイクル
まず(8)の構造で,3'末端のF1領域を起点として自己を鋳型としたDNA合成が伸長し,この時,5'末端側のループは剥がされて伸びる。更に,3'末端側のループのF2c領域は1本鎖であるためFIPがアニールすることができ,そのF2領域の3'末端を起点として,F1領域から先に合成されているDNA鎖を剥がしながらDNA合成が伸長していく。
次に(9)において,FIPから伸長合成されたDNA鎖によって剥がされて1本鎖となったF1領域から伸長したDNA鎖は,その3'末端側に相補的な領域を持つためループを形成する。このループのB1領域の3'末端から,1本鎖となった自己を鋳型としてDNA合成が始まる。そして,そのDNA鎖が2本鎖部分となっているFIPからのDNA鎖を剥がしながら伸長し,(10)の構造となる。
上記の過程によって,FIPから合成されたDNA鎖は1本鎖となり,その両端にそれぞれ相補的な領域F1,F1c及びB1c,B1を持っているため自己アニールしてループを形成し,(11)の構造となる。この(11)の構造は,先ほどの(8)の構造と全く相補的な構造となっている。
(11)の構造では,(8)の場合と同様にB1 領域の3'末端を起点として自己を鋳型としたDNA合成が行われ,さらに1本鎖となっているB2c 領域にBIPがアニールして B1 領域からのDNA鎖を剥がしながらDNA合成が行われる。それにより,ちょうど(8),(9),(11)と同様の過程を経て再び(8)の構造ができる。
また,(10)の構造において,1本鎖となっているB2c領域にBIPがアニールし,2本鎖部分を剥がしながらDNA鎖が合成される。そして,これらの過程の結果,同一鎖上に互いに相補的な配列を繰り返す構造の増幅産物がいろいろなサイズでできてくる。

反応機構の詳細およびアニメーションは栄研化学(株)のホームページ(http://loopamp.eiken.co.jp/)を参照されたい。
3.LAMP法の特徴
上記の反応により,LAMP法は以下の特徴を持つ。
・増幅反応が等温で進行するため,高価なサーマルサイクラーを必要としない。RNAを鋳型とする場合もあらかじめ逆転写酵素を加えるだけでDNAの場合と同様に増幅できる
[増幅が簡易]。
・LAMP法の増幅反応は迅速であり,現在製品化されている試薬は標的遺伝子を15〜60分で検出することができる
[迅速]。
・感度が高く,検討されたほとんどの標的遺伝子で10コピー以下からの増幅が可能である [高感度]。
・6領域を認識する4種類のプライマーを用いることから,特異性がきわめて高い
[高特異性]。
・DNA合成酵素による伸張反応では副産物としてピロリン酸が生成され,これがマグネシウムイオンと結合することが知られている。LAMP法では増幅産物がPCR法に比べて2桁程度多く生成されるため,このピロリン酸マグネシウムが白い沈澱として確認できる[増幅産物が多量]。
・このように,特異性が高く,増幅産物量が多いことから,別個の検出反応を用いず,濁度を測定することで,1ステップで簡易に標的遺伝子配列の検出が可能となり,実際に各種濁度測定装置や試薬が開発されている [検出が簡易]。
・LAMP法はPCR反応を阻害する物質の影響を受けにくいという特徴があることも分ってきている。食品検査分野においては食材や培地成分などでの阻害を受けにくいことも判明した。したがって,LAMP法は多くの場合,高度なDNAの精製は必要なく,短時間での簡易抽出が可能である
[抽出が簡易]。
4.LAMP法の応用
医療分野においては,今後遺伝子のPOCT(point-of-care testing)が重要になると考えられており,検体を入手してから30分以内に結果が得られる方法が必要とされている。また,医療分野以外でも試料を入手してその場で遺伝子検査を行いたいとの要求も多い。
そのような状況下で,現在,栄研化学ではLAMP法の特徴を利用して各種細菌やウイルスに固有の遺伝子配列を簡易・迅速に検出するための測定系を検討,製品化しており,また,多数の施設でも検討がなされている。今後LAMP法の各方面での利用が大いに期待される。